1.22.2012

★★僕は君たちに武器を配りたい(講談社)

「僕は君たちに武器を配りたい(瀧本哲史著、講談社・2011年9月)」は、昨年購入した本。就職を控えた学生向けに、おすすめである。帯には「20代が生き残るための思考法!!」とある。著者は日本の市場が収縮する中で、これからの若者の生き方に新たな提案を投げかけている。「サラリーマンとは、ジャンボジェットの乗客のように、リスクをとっていないのではなく、実はほかの人にリスクを投げっぱなしで管理されている存在なのである(230p)」と、著者は警鐘する。「もしあなたが小売店に勤める一介の店員だったとしても、時給で働くのではなく、売り上げに応じて報酬を得られる形にできないか店長と交渉することで、投資家的に働くことができる。一人の労働力としてではなく、投資家として働けば、その店に足りないものが何なのか、どうすればもっとお客さんが来店してくれるのか、客単価を高めるためにはどうすれば良いのか、さまざまな発想が湧き上がってくる。そうして自分の頭で考えることが投資家的に生きることの第一歩になるのだ(269p)」。


◆「スペシャリティ」だけが生き残れる
これからの日本では、単なる労働力として働く限り、コモディティ化することは避けられない。人より勉強をするとか、スキルや資格を身につけるといった努力では、コモディティ化の潮流から逃れることはできない。「スペシャリティ」になることだけが逃れる手段だ。要するに「ほかの人には代えられない、唯一の人物(とその仕事)」のことである。(38-39p)

◆就職ランキングに見る生き残る会社、ダメな会社
現在の日本で、安定した職場というのは本当にあるのだろうか。週刊誌やビジネス誌ではよく「良い会社、悪い会社」といった特集を組んで分析しているが、はっきり言えば「そんなものはない」というのが私の結論である。(87p)

◆ブラック企業の見分け方
「入ってはいけない会社」の見分け方について、具体的にアドバイスしたい。まずベンチャー企業で注意すべきなのは、新しいサービスや市場で、非常に業績を伸ばしているように見える会社だ。売る商品が決まっていて、急激に拡大している市場があり、多数の会社がその市場に殺到しているときは、シェアの奪い合いになる。そのために短期間に大量の営業社員を募集する必要が出てくるわけだが、得てしてそういう会社はブラック企業になりやすい。会社側も人材を長期的に育成しようとは考えておらず、ひたすら営業をさせて売り上げを立てることを至上命令とする。ノルマが達成できない営業マンは、当然給料が低いまま上がらず、上司からも厳しく当たられる。そのため長く仕事が続けられる社員は少なく、次々に辞めていく。当の会社はテレビコマーシャルなどで社名の認知を上げているので、募集をすればたくさんの応募があるし、社員が辞めたところで居たくも痒くもない。商品を売るスキルもいらないため、営業マンは若くて安い給料で働いてくれるならだれでもよく、短期間で辞めてもらったほうが好都合でもあるのだ。(94-95p)

◆若者を奴隷にする会社
ある経営者は、「うちの会社はお客さんが儲けさせてくれるんじゃなくて、社員が儲けさせてくれるんです」と述べていたが、現代においても形を変えた「奴隷ビジネス」はまだ続いているのである。同じことは中小企業に限らず、大手企業にもいえる。業種・業界を問わず、商品がコモディティになってしまった業界は、商品を安く仕入れて、安く売るしかない。コモディティ市場で戦う会社は必然的にブラック企業になる運命なのだ。(100-101p)

◆ニッチな市場に目をつける
これから就職や転職を考える人は、マクロな視点を持ちつつ、「これから伸びていき」「多くの人が気づいていない」ニッチな市場に身を投じることが必要なのだ。つまり就職においても「投資家的視点」を持っているかどうかが成否を左右するのである。どのような会社に就職すべかについて悩む人に、最後にこの言葉を贈りたい。高級ホテルチェーンを世界で経営するマリオット・グループは、ホテルマネージャーの心得として次のように述べている。「従業員に対してお客さまのように接しなさい。そうすれば従業員はあなたが接したように、お客さまに接するでしょう」つまり従業員を大切にする会社は、顧客を大切にする会社なのである。逆に言えば、顧客を大切にしない会社は、従業員も大切にしない会社なのだ。(103-104p)

◆人生は短い。戦う時は「いま」だ。
時には周囲から「ばかじゃないのか」と思われたとしても、自分が信じるリスクをとりにいくべきだ。自分自身の人生は、自分以外の誰にも生きることはできない。たとえ自分でリスクをとって失敗したとしても、他人の言いなりになって知らぬ間にリスクを背負わされて生きるよりは、100倍マシな人生だと私は考える。リーマンショック以降の日本では、資本主義そのものが「悪」であるかのように見なされる風潮がある。しかし資本主義それ自体は悪でも善でもなく、ただの社会システムにすぎない。重要なのは、そのシステムの中で生きる我々一人ひとりが、どれだけ自分の人生をより意味のあるものにしていくかだ。若手の経済評論家の中からは、「既得権益を握っている高齢世代から富を奪え」というような意見も聞かれるが、社会全体のパイが小さくなっているときに、世代間で奪い合いをすることには意味がない。才能がある人、優秀な人は、パイを大きくすること、すなわちビジネスに行くべきだ。パイ全体が収縮しているときに、分配する側に優秀な人が行っても意味がない。誰が分配しようが、ない袖は振れないからだ。社会起業家とか公務員という選択は、社会に富が十分にあって分配に問題がないときなら意味があるだろう。だが分配する原資がなくなりつつあるのが、今の時代ではないだろうか。人生は短い。愚痴をこぼして社長や上司の悪口を言うヒマがあるのなら、ほかにもっと生産性の高いことがあるはずだ。もし、それがないのであれば、そういう自分の人生を見直すために自分の時間を使うべきだ。(287-288p)