12.01.2012

【キャリア】ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪(文春新書)

「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪(今野晴貴著、文春新書・2012年11月)」は就職を控えた学生にぜひ一読してほしい本である。厳しくなる一方の生活の中で、どう生きていくかを考えるためには、この本に書かれてある社会の現実を知らなければならないと思う。

<以下、本書から抜粋>

◆ブラック企業に共通する特徴
・入社してからも終わらない「選抜」があること
・会社への極端な「従順さ」を強いられる
・自社の成長のためなら、将来ある若い人材を、いくらでも犠牲にしていくという姿勢
※経営が厳しいから労務管理が劣悪になるのではなく、成長するための当然の条件として、人材の使い潰しが行われる。いくら好景気になろうが、例え世界で最大の業績を上げようが、彼らの社員への待遇は変わることがない。社内の選抜と、「従順さ」の要求には終わりがないのだ。
(61P)

◆働き続けることができない点で、すべてのブラック企業は共通している。ブラック企業がいくら増えたところで、そして、彼らがいくら雇用を増やしたところで、そして、彼らがいくら雇用を増やしたところで、若者にとって安心して働ける社会は訪れない。それどころか、彼らにとって、新卒、若者の価値は極端に低い。「代わりはいくらでもいる」、取り換えのきく「在庫」に過ぎない。大量に採用し、大量に辞めていく。ベルトコンベアーに乗せるかのように、心身を破壊する。これら大量の「資源」があってはじめてブラック企業の労務管理は成立する。「代わりのいる若者」は、ブラック企業の存立基盤なのである。「正社員になること」を唯一の解答として与えられてきた若者にとって、正社員になったとしても、必ずしも安定が保証されないという事実は、残酷としかいいようのない事態である。いまやどれだけ競争して、正社員を目指したとしても、そしてたとえその競争に「勝利」したとしても、個人的にすら問題は解決しない。ブラック企業の問題は、格差問題が、非正規雇用問題から、正社員を含む若者雇用全体の問題へと移行したことを示している。
(62-63P)

◆ブラック企業の若者を食いつぶす動機
1.「選別」(大量募集と退職強要)……大量に採用したうえで、「使える」者だけを残す。これは、利益を出し続けるためには、ぜひともかなえたい、企業の欲望。→入社後も続くシューカツ、戦略的パワハラ
2.「使い捨て」(大量募集と消尽)……若者に対し、心身を消耗し、働くことができなくなるまで過酷な労働を強いる。→残業代を払わない、異常な36協定と長時間労働、辞めさせない
3.「無秩序」……パワハラやセクハラ→職場崩壊
※これらは、「代わりがいくらでもいる」状態を背景とし、会社の労務管理自体が機能不全を引き起こしている状態である
(78-79p)

◆辞めさせる「技術」が高度になってきた
1.「カウンセリング方式」……個別面談で抽象的な目標管理を行い、自己反省を繰り返させる。本人は自分が次第に雇用されるに値しない無能な存在だと認識していく
2.「特殊な待遇の付与」……「みなし社員」「準社員」「試用期間」など、辞めることを前提とした呼称を設けることで、自分から辞める決意を促す方式。この場合には、例えば「退職かみなし社員かを選びなさい」といった選択が迫られる。大概の若者は突然の申し出に冷静に判断できない。
3.「ノルマと選択」……過剰なノルマを課すケース。
(114-116p)

◆うつ病になるまえに、5つの思考・行動を(ブラック企業と対峙するための基本的な考え方)
1.自分が悪いと思わない
2.会社のいうことは疑ってかかれ
3.簡単にあきらめない
4.労働法を活用せよ
5.専門家(ユニオンやNPO)を活用せよ
(126-130P)

◆非正規雇用の変化と永遠の競争
ブラック企業にとって「代わりはいくらでもいる」という追い風の要因の一つが非正規雇用増加とその変化である。「労働力調査」(総務省)によると、2000年から2011年にかけて、15歳から24歳の労働者のうち、非正規雇用の割合は、男性で19,8%から29.4%に、女性で、27.0%から37.7%に増加しており、特に若年層で非正規雇用が際立って増加している。従来の非正規雇用はパート、アルバイトが主要なもので、これは主に「主婦」や学生、定年後の高齢者に担われていた。そのためパート労働は「家計補助型」と呼ばれているように、自らの稼ぎだけで生活を維持するわけではないものと扱われた。ところが、近年こうした非正規雇用の構図が崩れてきた。「家計補助型」ではない「家計自立型」と呼ばれるような非正規雇用がこの間急激に増加している。1997年には208万人であった家計自立型非正規雇用は、2007年には434万人にまで増加した。家計自立型非正規雇用の特徴は、従来のパート労働等よりは若干時給が高く1000円前後、月収は20万円前後と「ぎりぎり」生活できる水準にあるということだ。これらの雇用は、「契約社員」「派遣社員」という新しい呼び方がつけられていることが多い。派遣や契約社員が正社員を目指す過程では、正社員なみの「無限の命令」を引き受ける必要がある。若者は「非正規に安住する」ことすらできなくなってきた。ブラック企業にとっては、非正規雇用を「トライアル」させて、使えなければ辞めさせる。「代わり」は新卒からいくらでも補充できる。また、、「トライアル」から良い者を選抜することで、いつでも正社員を退職強要の対象として、辞めさせることもできる。こうして、非正規雇用の「トライアル」化は、ブラック企業に「代わり」を供給する。
(198‐202p)