4.13.2016

【キャリア】フランスにおける職業教育の諸相(五十畑浩平著、社会政策第7巻第2号、ミネルヴァ書房)

大学の先輩の五十畑浩平さんに、社会政策学会誌「社会政策」第7巻第2号を頂いた。
せっかくなので、その会誌に収録されている五十畑さんの論文「フランスにおける職業教育の諸相」を一部、紹介したい。


フランスの雇用情勢
フランスの若年者(15歳~24歳)の失業率は22.8%(2014年の第1四半期)で全年齢層の失業率(9.7%)の2倍以上の数値。
若年層の非正規の割合は53.5%と、全年齢層の15.0%に比べ3倍以上高い。

フランスの若年者は厳しい雇用環境に置かれているが、その理由の1つと考えられるのが、本来であれば労働者を保護するはずの労働法の存在。
雇用形態にはじまり、労働者の処遇、賃金、さらには、労働時間や解雇に至るまで、フランスでは法による規制が随所にみられる。
本来はより多くの人員を雇いたくても、労働法によって雇うためのハードルが高く設定されているため、若年者をはじめとした求職者を雇えないでいる状態となっている。
このように、すでに職を得た労働者の権利を守るあまりに、かえって労働市場を硬直化させ、新規参入の若年者に対する雇用が制限され、結果的に若年者の雇用情勢が改善されないことにつながっている。


フランスの採用慣行
フランスの場合、非正規の職から正規の職に徐々に移行するのが一般的ととらえられている。
卒業したての若者は経験不足であるため、すでに職務経験のある「中途」との競争に負け、
やむを得ず非正規の職に就かざるを得ないからである。
しかしながら、逆に、非正規の仕事からキャリアをスタートさせるのが一般的であるため、
非正規の職から正規の職へのキャリアパスは、日本よりたやすいと言える。
日本の場合、非正規雇用は正規職へのステップとして機能していない。


キャリア形成
2004年に学業を終えて就職した若年者のうち、3人中2人にあたる66%が有期雇用や派遣などの非正規雇用からキャリアをスタートさせている。
3年後には正規雇用である無期雇用の割合が増え、正規のポストに就いているのは全体の63%となっている。
言い換えると、この世代の6割以上が正規雇用に就けるようになるまでに3年を費やされなければならない。

一般的に最初から正規の職に就くのは、日本とくらべると難しい状況のため、
在学中からインターンシップを行ったり、交互制職業教育(若年者の技術向上を図りながら公認された資格を取得するために教育機関での理論的学習と職場での実践を交互に組み合わせた職業教育であり、その代表的な制度に「見習訓練制度」がある)を受けて資格を取得したり、卒業後もインターンシップ、有期雇用、補助雇用など経験しながら、徐々に正規職へと移行している。


職業教育の理念
フランスの憲法は、「職業教育に接近する平等の機会を保障」している。とくに、個人の教育の費用負担に関しては、「無償」で行うことを「国家の義務」とも定めている。
フランスでは教育は、教育訓練を受ける個人ではなく、国家が費用を負担するものであるという概念が浸透している。
それは、教育は単に個人のためのみならず、教育によって身についた知識や技能は、職場に還元され、ひいては国家に還元されるという教育に還元され、ひいては国家に還元されるという教育に対する包括的な見方ができているからであると考えられる。

一方で、日本では、教育は自身あるいは子どもに対しての個人的な投資という意味合いが強く、国家が費用を負担することが理解されていない。
経済のグローバル化や高度情報社会化により、大卒生が参入するビジネス界はより高度なスキルを要求するようになっており、学生は質の面においてもスキルや技能を高めなければならなくなっている。
こうしたなか、グローバル化や高度情報化社会化がさらに進めば、個人や家計の負担がさらに高まる可能性がある。
したがって、こうした社会だからこそ、今後は、政府が職業教育により責任を持つことが求められており、そのためにも、現状では個人の支出に多くを依存している教育に対して、考え方を抜本から見直す必要があると考えられる。